key: cord-0027931-xiz5jo1x authors: nan title: 日本におけるオンライン・ハラスメントの現状と対策:Twitterでの女性記者のツイート「炎上」を例に date: 2022-02-03 journal: F1000Res DOI: 10.12688/f1000research.74657.2 sha: 051071280ae1d0875b78a09d6f970d7af79061a9 doc_id: 27931 cord_uid: xiz5jo1x Harassment on the Internet, particularly on social media such as Twitter, has reached a level where it can, without exaggeration, be characterised as a real-world societal problem in Japan. However, studies on this phenomenon in the Japanese language environment, especially adopting a victim-centric perspective, are rare. In this paper, we incorporated the concept of online harassment and reviewed existing studies about online harassment from Japan and abroad. We then conducted a detailed case analysis of the “flaming” of a female journalist and those who targeted her on Twitter. Based on our analysis, we observed that there were three layers of users who targeted the journalist: influencers, users who responded to the instigation by influencers, and trolls. Each harassed the journalist, but in a different manner. Given Japan’s particular difficulty of imposing domestic regulations on social media companies that are mostly from abroad, we propose and describe possible measures that individuals and their employers should consider taking. 。 2 情報操作型のサイバー攻撃のこと (長迫, 2021) 。 子どもの権利を推進する国際 NGO であるプラン・インターナショナルの 2020 年の調査によれば、日本 の 15-24 歳の若年女性 501 名のうち、25 %が「SNS で何らかの形でオンライン・ハラスメントを経験し たことがある」と回答したという (プラン・インターナショナル, 2020) 。他方、31 カ国で行われた調査結 果を比較したところ、各国でオンライン・ハラスメントの概念について理解が異なること、回答者によっ ては全く理解されていないことも明らかとなった。 米国・ピュー研究所による 2021 年の調査報告書によれば、米国人の 4 人に1人がオンライン・ハラスメント を受けたことがあり、このうち半数が政治的な意見を理由にハラスメントを受けたと答えた (Vogels, 2021)。ま た、2014 年、2017 年の同様の調査に比して、身体的な脅迫や、ストーキング、継続的なハラスメント、セクシュ アル・ハラスメントなど、より深刻なオンライン・ハラスメントを受けたと答えた人数が増加したという。 日本語環境については、インターネットプロバイダーのBIGLOBE 社による全国の20代-60代のSNSを利用 する男女 770 人に対する調査において、SNS で他者から誹謗中傷 3 をされたことがあるかとの質問に対し、 4.5%が「よくある」、13%が「たまにある」と返答した (BIGLOBE株式会社, 2020) 。なかでも 20 代は年代別 で最も顕著に誹謗中傷を受けた比率が高く、10%が「よくある」、18.9%が「たまにある」と回答したとい う。ただしここでの誹謗中傷はオンライン・ハラスメントの定義とは異なるため、注意が必要である。誹 謗中傷とは、誹謗 (他人の悪口を言うこと) と中傷 (根拠のない悪口を言い、他人の名誉を傷つけること) の 2 つが合わさった語である(三省堂, 2013) 。炎上とは、前述のとおり、誹謗中傷を含む批判的なコメントがソ ーシャルメディアに殺到する現象のことで、オンライン・ハラスメントは、誹謗中傷を含むハラスメント 行為がオンライン上で行われることであり、時にその行為は集中的に行われ、炎上現象にもなり得る。 4 オンライン・ハラスメントの全容を明らかにする試みとは別に、被害者の回復支援を優先したアプローチ で行われた調査結果が存在する。文筆従事者の団体、国際ペンクラブの米国支部 PEN アメリカでは、記 者やライターなどが SNS で深刻なハラスメントに遭っていることを重く見て、 「オンライン・ハラスメン ト フィールドマニュアル」という調査研究事業を開始した (PEN America, n.d.-c)。同団体が 2017 年に実施 した調査によれば、オンライン・ハラスメントを受けた 230 名から回答があり (うち 196 名は性別の明記 があり、136 名が女性、52 名が男性、8 名がその他) 、インターネット上で発生したオンライン・ハラス メントが、被害者の実生活に深刻な影響を及ぼしていることが明らかとなった。例えば、67%の回答 者が「自分や身近な人の身の危険を感じたり、作品の発表を控えたり、SNS のアカウントを永久に削除 するなど、深刻な反応を示した」、64.3%が「ハラスメントを理由に SNS を休止した」、62.3%が「オン ライン・ハラスメントが私生活や身体的、心理的、精神的な健康に影響を及ぼした」と答えている (PEN America, n.d.-b)。また、ハラスメントを受けた理由としては、53.5%が「自分の政治的見解を述べたた め」、 「個人的な意見を述べたため」、38.9%が「性別や性自認を理由に標的にされた」、31%が「外見 (ルッキズム)」と回答しており、オンライン・ハラスメントが SNS 上で個人が意見表明を行ったこと、も しくは発言者のジェンダーやアイデンティティを理由に行われていることが分かる。 また、研究成果公開活動や、研究者同士のネットワーク拡大、また学生とのコミュニケーション促進の一 助として、ソーシャルメディアの使用が奨励されている場合が多い大学界においても、研究者がオンライ ン・ハラスメントの被害に頻繁に遭い、有害な影響が出ていることが指摘されている。ゴッセら (2021) は、オンライン・ハラスメントは仕事、アイデンティティ、もしくは学者としての必要条件のように見な されているものの、ジェンダー、外見(ルッキズム) の要素が絡まることで複雑化していると述べた。 ソビエラージ (2020) によれば、オンライン・ハラスメントは誰でも被害に遭う可能性があるが、特に加 害者の標的になりやすい属性があるという。すなわち、 1) マイノリティである、 2) フェミニスト(旧来のジェンダー価値観に縛られない) である、 3) 政治、スポーツ、外交、防衛、サイバーセキュリティなど男性優位の領域について意見する 3 同調査では、「根拠のない悪口を言いふらして他者の名誉を傷つけたり、人格を否定するような言葉で他者を傷つけるこ と」と定義されている。 4 その他、類似の用語として、ネット上いじめ、サイバーブリングなどがあるが、執筆時点では、それぞれの用語の定義は確 定していないように見受けられる。今後のさらなる議論と整理が望まれる。 場合、ハラスメントの標的になりやすく、これらの属性の共通部分においては最もハラスメントに遭う確 率が高くなる (図 1) 。なお、欧州の調査では、女性議員の 58.2%が SNS 上でオンライン・ハラスメントを 受けたことがあると返答したが、特に年齢の低さ (40歳以下) 、次に野党党員であることなど、議会政治図 3 はZ氏アカウントへの直接リプライ及び直接リプライをリツイート、引用 RT したツイートの 時間当たりの数をグラフ化したものである。これからは、一時間あたり直接リプライの数が、8 月 3 日午 後 11 時台に一度ピークを迎え、低下した後、翌 8 月 4 日午後4時台から再び急増し、午後9時台になるま で、一時間あたり優に 100 近くのリプライが届く状態が継続したことが分かる。質的分析ソフト NVivo Windows(2020 年 3 月リリース版) を使用して、直接リプライの感情を自動で分類したところ、図 4 のよ うになり、大部分の直接リプライが批判的な内容であることが判明した。なお同等の機能を果たすフリー の代替品として、KH Coder 3 や、Python のライブラリML-Ask がある。これらを用いることで、ツイート に現れる単語の出現頻度や感情を分析することができる。 さらにツイートを手動で分類したところ、1,175 件の直接リプライのうち、肯定的な内容は 147 件、批判 的な内容は 1,022 件となっていた。また、同ソフトを使用してワードクラウドを作成したものが、図 5 である。図からは、直接リプライを送った者は「日本における (新型) コロナ (ウイルス感染症) による 死者数は少ない」という旨を主張していることが分かる。 直接リプライを手動で分類したところ 7 、表 1 のとおりであった。最も数の多かった元ツイートの内容に 対する主張は、 「 (死者数が) 少ないという表現は妥当である」というもので (216 件) 、次は「 (新型コロ ナ感染症の) 他にも重要な事柄がある」という内容のものであった (170 件) 。これらは、形式的誤謬ない 図 3. 一時間あたり直接リプライおよびそれらのリツイート、引用 RT 数. 7 同一ツイートに複数のコードが含まれる場合もある。本稿ではデータを読みながら探索的に自由にコードを付す「生成的コ ーディング generative coding」を行った。質的研究で採用されることの多いこのコーディングでは、解釈が重要な機能を果た し、主体的なものと考えられる。このため、複数のコーディング作業者をおくことは稀で、選定されたコード群からコード を選んで付し、複数のコーディング作業者を置いてその間の一致度を評価する「標準化コーディング standardized coding」と は異なる (大谷 2019) 。 図 4. 感情の自動コーディングの結果. 図 5. ワードクラウド (固有名詞は匿名化). し偽善の抗弁である「そっちこそどうなんだ主義 (whataboutism)」に基づくコメントである。また、71 件の 直接リプライは、元ツイートが扇動的であると見なし、批判を行っていた。 直接リプライは、元ツイートの内容ではなく、Z氏の属性に対して批判もしくは誹謗するものも多かっ た。例えば、 「恥を知れ」 「心の底から軽蔑する」「うるさい、クズ」「そんなことでよく記者をやっ ているものだ」といった、元ツイートの内容には全く関係のない個人攻撃が 195 件、X社批判が 186 件、 マスコミ批判が 177 件、 「感情的になるな」といった女性差別的なコメントが 150 件あった。なお、「女 性が感情的である」というのはジェンダー・ステレオタイプ ( 「女は優しい」「男はたくましい」「女は 世話好き」「男は数字ができる」のような、男女の性格や能力、役割、行動などに関する単純で固定化さ れた考え方 (森永, 2013) ) の一種で (Weigard et al., 2021)、こうした偏見が他者認知をゆがめ、性差別、なか でも善意的性差別 (benevolent sexism) が行われるとされる (Glick & Fiske, 1996 , 1997 , 1999 , Correll et al., 2020 。日本語のオンライン環境においても、特に女性に対し「感情的である」として発話のパフォーマ ンスを攻撃することで、発言者の意見を抑え込むことが指摘されている (田中, 2020) 。こうした理由か ら、「感情的である」というのは個人攻撃ではなく、女性差別的、すなわちZ氏が属する (とみなされて いる) 集団に対する差別的発言であると判断した。 このように、Z氏がオンライン・ハラスメントを受けた理由としては、Z氏が政治的見解を述べたこと、 個人的な意見を述べたこと、女性であること、外見(ルッキズム) 、という PEN アメリカの調査結果でも 見られた、SNS 上で個人が意見表明を行ったこと、もしくは発言者のジェンダーやアイデンティティを理 由に行われていることが分かる。これに加え、日本語インターネット空間独自のアイデンティティ攻撃の 理由として、Z氏がX社の記者であるという側面があることが分かった。 次に、Z氏に対する直接リプライと、元ツイートの引用 RT の一時間毎の数量をグラフにし可視化、分析 したところ、炎上を通じてハラスメントを行ったユーザーは、3 つの層に分かれることが推測された。す なわち、① インフルエンサー (高頻度炎上関与ユーザー群) 、② インフルエンサーの「犬笛」に呼応する 炎上加担ユーザー群、③ 荒らしを行うユーザー群、である。 小山ら(図 7. インフルエンサーのフォロー/フォロワー関係 (カッコ内フォロー数、フォロワー数). 図 6. 一時間あたり直接リプライとインフルエンサーの引用 RT. 的を攻撃するように合図する行為」を意味する (PEN America, n.d.-a)。先のインフルエンサーのうち、約 350 万ユーザーをフォロワーに持つH氏は、Z氏のツイートを2度に渡って引用 RT を行っている。第一回 目の引用 RT は、2021 年 8 月 4 日午後 6 時 9 分に行われ、記者は新型コロナウイルスによる死者数は多い と読者の恐怖を煽ることで販売部数を稼ぐ最低のビジネスをしている、もっと科学を勉強して冷静かつ論 理的に記事を書いてほしいが、無理であろうから当該メディア自体なくなってほしい、という内容であっ た。第二回目の引用 RT は、同日午後 7 時 11 分に行われ、Z 氏によるツイートは新型コロナウイルスに 対する恐怖を煽って儲けることを正当化しており、最低である、という内容であった。 この 2 つのツイートに共通する主張が「煽るな」というものである。先述のとおり、直接リプライのう ち、元ツイートが扇動的であると批判したものは71件であったが、これらの発生した時間帯を時系列で確 認すると、それまでは合計 6 件しかこの内容の直接リプライがなかったものの、H 氏が一度目の引用 RT をした午後6時台は7件、二度目の引用 RT を行った午後7時台は 15 件、午後8時台は11件と、急増して いる (図 9) 。また、H氏のツイートを見て来たと述べたツイートも3件あり、インフルエンサーの犬笛 に呼応して、わざわざZ氏のアカウントに対して直接、故意の攻撃を行っていることが見て取れた。な お、山口 (2015, 2016, 2020) による炎上現象の既存研究によれば、炎上加担の理由として正義感をあげる 人が大半とあるが、本ユーザー群はこうした大多数の炎上加担者であることが推測される。 直接リプライの分析からは、インフルエンサー、及びインフルエンサーの呼びかけに直接・間接的に反応 したと推測されるユーザーとは別に、③ 荒らし (扇情的なコメントやヘイトスピーチを繰り返し投稿する こと)を行うユーザー群が見て取れた。まず、195 件の個人攻撃のツイートのうち、12 名のユーザーが 2 度以上、繰り返し個人攻撃のリプライをZ氏に送っていた。また、図 10、図 11 は批判的な内容の直接リ プライ、及び個人攻撃のリプライの一時間あたりの数をグラフ化したものであるが、両者の数量は必ずし も呼応していない。特に一時間あたりの個人攻撃コメントが多かった時間帯 (2021 年 8 月 4 日午前 11 時 -8 月 5 日午前 2 時) について、先のインフルエンサーの犬笛に呼応した批判的ツイートの一時間あた り数と比較すると、特に増減傾向に類似性が見られない (図 12) 。これらから推測されるのは、常日頃か ら Z 氏の発言をモニターし、期を見て荒らしを行うユーザー群が存在する可能性である。実際、自称メ ディアウォッチャーで7千余のフォロワーを持つユーザーが、2021 年 3 月 18 日に、X社には一部、低質 かつイデオロギー色の強い記者がいる、という内容のツイートを行い、X 社の「低品質」記者一覧とし 図 8. インフルエンサーによる引用RT拡散ネットワーク図. て、Z 氏ほか複数名の X 社に関係する記者の Twitter アカウント情報を掲載している。なお、こうしたユ ーザーが、Z 氏の他のツイートに対しても繰り返し荒らしを行っているか、またいかなる動機に基づいて 荒らしを行っている・行ったのかはさらなる調査分析が必要である。 8 図 10. 一時間あたり批判的コメントと個人攻撃コメント. 図 9. 「煽るな」という内容の一時間あたり直接リプライおよびインフルエンサーの引用リツイート時間. 8 インターネット上の緩いネットワークでつながる、荒らし (トロール) コミュニティの集団行動の原理については、エブナー( (Glick & Fiske, 1996 , 1997 , 1999 , Correll et al., 2020 Inside the Black Box of Organizational Life: The Gendered Language of Performance Assessment The Ambivalent Sexism Inventory: Differentiating Hostile and Benevolent Sexism Hostile and Benevolent Sexism The Ambivalence toward Men Inventory: Differentiating hostile and benevolent beliefs about men Little evidence for sex or ovarian hormone influences on affective variability ネット炎上におけるユーザーの共振構造. The 33rd Annual Conference of the Reviewer Expertise: 計量経済学, ソーシャルメディア, 社会情報学, 情報経済論 I confirm that I have read this submission and believe that I have an appropriate level of expertise to confirm that it is of an acceptable scientific standard, however I have significant reservations, as outlined above.